こだわりと子どもへの愛情が詰まっていることが
使うほどに伝わってくる、
離乳食用スプーン「こどもさじ」。
その誕生秘話やこだわりの数々を、
コトホギデザインの池上直樹さんにうかがいました。

手にすっとなじむようにフィットし、とてもなめらかな口あたりの「こどもさじ」。プロダクトブランド「toi」から発売され、2016年にはキッズデザイン賞も受賞。嚥下の専門家監修のもと、デザイナー・アートディレクターであり、一児の父でもある池上さんが手がけました。「娘が離乳食をはじめるとき、食べ物で体が作られること、食べることの大切さを改めて実感しました。自分で購入したベビースプーンも含めていろいろなスプーンを使ってみたのですが、スプーンによって使い勝手が異なることに気が付いたんです。赤ちゃんはまだ上手に口が動かせないので、スプーンのちょっとした形状の違いでうまく食べられないことがあるんですよね。」

「離乳食はスプーン選びが重要だと実感したんです。適したスプーンを使えば、赤ちゃんもごきげんに食べられて親もうれしいし、食べること・食べさせることが、お互いにぐっと楽しくなりました。」親子が離乳食を一緒に楽しめるスプーンを作りたい…そんな親としての想いが、こどもさじ誕生のきっかけだったのですね。
赤ちゃんの自然な口の動きに合わせた食べやすいかたちを追求したこどもさじは、ヘッド部分は全体を薄く、くぼみを浅く仕上げています。一方で、おかゆなど水分の多い食べものもすくいやすいよう、ヘッド中央部のくぼみはやや深くする、という細やかな気配りも。この小さなスプーンの先端には食を楽しむためのこだわりがギュッと凝縮されているのです。

「スプーンの素材についても、デリケートな赤ちゃんの口に入れるものなので、安心して使えるものが理想だなという想いがありました。」数々の木材の中から強度と美しさを兼ね備えた国産の山桜を選び抜き、塗装は食用の天然荏胡麻油のみで塗装して仕上げました。
「妻の母が嚥下の専門家であることと、仕事のつながりですごく技術力の高い木工職人さんと仲が良かったこともあり、そういったご縁を活かして、食べやすさ・食べさせやすさと素材にこだわって作り上げることができました。」

製品化にあたっては苦労も多かったそう。「スプーンの形状を決めてそれを形にしていく過程が特に大変でした。自分たちの理想を伝えて職人さんに試作をしてもらい、専門家に意見を聞きながら、厚みやカーブなど細かく調整して、また試作をする…というのを繰り返して、形状をつめていきました。」
驚くことに、こどもさじは木工職人さんが1本1本すべて手作業で木材から削りだしています。「食べやすさ・食べさせやすさを叶える形状を守るため、厳しい基準を設けています。手作業で削り出しているにも関わらず、1本1本の形状の差がほとんどないのは、職人さんの技術力の高さのおかげです。」

実際にこどもさじを使う方からの反響は、池上さんの大きな支えになっているそうです。「使いやすいという声をたびたびいただくのですが、特にお子さんが気に入ってくださっていると聞くと、やっぱりうれしい気持ちになりますね。こどもさじは木のスプーンなので、オイルを塗ってメンテナンスしていただきたい製品なのですが、その手間と時間をかけることでより愛着が増して離乳食が大切に思えるようになったといった声を、あるお父さんからいただいたのが印象に残っています。」

現在は国産の山桜で生産されるこどもさじですが、琉球松など地域の特色ある木材を使ったり、端材を使って製品化する取り組みも始めたそうです。
「強度や加工のしやすさをクリアした材を、できるだけ端材から安定的に仕入れたいのですが、これがなかなか難しくて。toiは小さなブランドなので、楽しみながら少しずつ取り組みを広げていけたらと思っています。こだわりすぎて、新製品を生み出すまでに時間がかかるブランドではありますが、子育てや家族で過ごす時間が楽しく豊かになるようなものづくりをしていきたいです。」

真っ白い箱が印象的なこどもさじのパッケージ。
インクをのせず、エンボスのみで仕上げ、糊もテープも使わずに留められる仕様になっています。
出産のお祝いに選んでもよろこばれそうですね。
実はハップアールも、成分や使用感にこだわりがありすぎて、
製品化までに長い年月がかかるブランドです。リッチクレンジングクリームも何度も試作を重ねました。
苦労を重ねた分、お客様に“使ってよかった”と言っていただけたときのよろこびもひとしおです。



グラフィックデザインを軸に幅広く制作活動を行うとともに、
こどもと共に育ちゆく家族のためのオリジナルプロダクトブランド
「toi(トイ)」の企画・運営を担当している。
https://kotohogidesign.com/